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September 01, 2011

「おうつり」を知っている人はもういない?

Matti_2

月に一度の文章教室の課題作品をひねり出そうと、数少ない頭の中の引き出しを無作為に開け閉めしているうちに、幼い頃のある日常の1シーンがふっと浮かび上がってきた。

まだ小さな子供だった頃、夕餉時にお隣のおばさんが煮物を少し小鉢に入れて、「ほんの少しだけどお裾分け」といって届けてくれたり、「今日は、子供の誕生日でお赤飯を炊いたから」とお重にごま塩の入った袋も添えて持ってきてくれたりということがよくあった。

そして、煮物など頂いたら、届けてくれたおばさんは、「今、お皿持って帰るから洗わないでいいから・・」みたいに言い、頂いた母のほうは奥に入り、大急ぎで自宅のお皿に煮物を移し変え、お皿をささっと洗い、中に小さなマッチをひと箱入れて「ごちそうさま・・」とお礼を言いながら、お返しをする。
お重に入ったお赤飯にしても、同じこと。玄関先で待っているから、とにかくささっと物事を済ませる。

それは、忙しい夕餉の仕度の手を止めて応対する相手を、気遣ってのことと、改めてお返しとなると、まさかマッチひと箱では済ませないだろうから、この場で収束させて、いつまでも相手に負担を感じさせないようにとの配慮なのだろう。

そんな大人たちのやり取りを、襖の陰から(子供だった私は)、程よい距離感を保ちながらのご近所付き合いを好感を持って眺めていた記憶が蘇ってきた。

頂いたお返しにするものとして、「マッチ」は手軽・買い置きできるなどという利点があるし、昔はどの家でもガスに火をつけるのには必需品であったから、頂いて困るものではないし、もっと言えば、マッチ棒は先端に硫黄(いおう)が付いているので硫黄⇒祝うと転じてお祝い事のお返しに使うという説もあるのだとか。

そして、贈り物を受けたときは必ず心ばかりのものでよいのでお返しをするというのが昔からのしきたりとしてあり、その事を「おうつりを入れて返す」と言っていたことを、今日になって博学の友人と話していて思い出した。

とこんなに細かく書いた理由がある。
前述の文章教室で、課題作品の中に「マッチ」の件を書いたのだが、残念ながら昔、そんなことをしたり見たりしたことが無い人ばかりだったのだ。

私より先輩の方々も男性だからか「知らない」とのこと。
若い人が知らないのは当然だろう。しかも今の時代はご近所付き合いそのものが希薄だし、友人知人同士だとしても、お重などにわざわざ入れたりせず、使い捨て容器に入れてくれたりすることが多く、味気ない時代になった。

塗り物の重箱にきれいに詰められたお赤飯と使い捨ての、持つとペコペコと音のするプラスティック容器に入ったものと、比べたらどちらが美味しそうに見えるだろうか?

しきたりを守りながらも相手を気遣う「日本人の美学」はどんどん消えて行く。

今の時代、いったいどれだけの人が「おうつり」なんて言葉を知っているだろう~~

寂しいね。

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